労働安全衛生情報

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働く人の健康診断について

※日野 義之

 企業は、従業員を対象に、健康診断を一年以内毎に一回実施します。また、働く人には、その健康診断を受診すべきことが法律で定められています。働く人を対象にした健康診断には、一般健康診断や特殊健康診断など以下のようなものがあります。

I.職場における健康診断の種類:
法令により実施が義務付けられている健康診断は、主に以下の3つに分けられます。

(1)一般健康診断
一般健康診断は、労働者の一般的な健康状態を調べる健康診断で、下記のような種類のものがあります。

  • 雇入れ時の健康診断:入社時の健康診断
  • 定期健康診断:年1回定期的に実施
  • 特定業務従事者の健康診断:特定業務(深夜業など)従事者に、半年毎に
  • 海外派遣労働者の健康診断:6ヵ月以上海外に派遣される労働者に
  • 結核健康診断:各種健康診断で結核が発病するおそれのある者に

(2)特殊健康診断
特殊健康診断は、労働衛生上有害であるといわれている業務に従事する労働者に対して行われる健康診断です。業務の種類によって健診項目が異なる特別の健康診断です。

  • じん肺健康診断
  • 有機溶剤等健康診断
  • 鉛等健康診断
  • 電離放射線健康診断
  • 特定化学物質等健康診断
  • 高気圧業務健康診断
  • 四アルキル鉛健康診断
  • その他の指導勧奨による特殊健康診断
     VDT健診・振動工具健診・紫赤外線健診等

(3)臨時の健康診断
都道府県労働局長が労働者の健康を保持するために必要と認めた時に、事業者に対してその実施を指示するもの。


II.一般健康診断について:
一般健康診断の目的は、職場における諸因子からの健康影響の早期発見及び労働者個人あるいは事業場全体の総合的な健康状況の把握です。健康障害や疾病を早期に発見するだけでなく、健康状態を正確に把握したうえで、保健指導、作業管理あるいは作業環境管理へのフィードバックを行う必要があります。したがって、健康診断の結果は、労働衛生管理を行ううえで、個々の労働者や事業場にとって極めて重要な情報となります。

1.一般健康診断の活用:
企業には、健康診断後に受診者へ健康診断結果を通知し、必要に応じた事後措置を実施すること、健診結果で有所見者を認めた者に保健指導を実施することが求められています。また、健康診断の結果に基づく医師又は歯科医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講じることが求められています。

. 一般定期健康診断の健診項目:
一般定期健康診断においては、法律で下記の健診項目を実施することが定められています。

イ 既往歴及び業務歴の調査
ロ 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
ハ 身長、体重、視力及び聴力の検査
ニ 胸部エックス線検査及び喀痰検査
ホ 血圧の測定
ヘ 貧血検査(血色素量、赤血球数)
ト 肝機能検査(GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP)
チ 血中脂質検査(総コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)
リ 血糖検査(血中グルコース量またはヘモグロビンA1Cのいずれか)
ヌ 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
ル 心電図検査(安静時心電図検査)

(* ヘ、ト、チ、リは採血して検査する項目 )
次の場合,医師が必要でないと認めるときは、上の健診項目を省略できます。
1.身長(25歳以上の者)
2.喀痰検査(胸部エックス線検査で疾患が発見されない者,胸部エックス線検査で結核発病の恐れがないと診断された者)
3.ヘ、ト、チ、リ、ルの検査は、35歳未満及び36〜39歳の者
4.尿中の糖については血糖検査時

. 一般健康診断における主な健診項目からわかること:

ハ 身長、体重の検査

肥満度は、BMIで判定します。BMI(Body Mass Indexの略)とは、国際的に用いられている体格の指標で、下記の式で算出され、からだの脂肪の量(体脂肪量)と相関があります。

《BMI指数の求め方》  BMI指数=体重kg÷身長m÷身長m

高度の肥満は高血圧、心臓病、糖尿病などの原因になります。適度な運動と食事管理により適正体重を維持するよう心がけましょう。

<肥満判定>

BMI

日本肥満学会
による判定

WHO基準

18.5未満

低体重

低体重

18.5〜24.9

普通普通

正常

25.0〜29.9

肥満(1度)

前肥満

30.0〜34.9

肥満(2度)

I度

35.0〜39.9

肥満(3度)

II度

40.0以上

肥満(4度)

III度

ニ 胸部エックス線検査

肺の疾患の有無を調べます。肺結核、肺がん、肺炎、慢性気管支炎、肺気腫、じん肺などの発見に役立ちます。心臓の大きさや形についても大まかに観察でき、時に、症状や心電図とあわせて有用な情報を提供してくれることもあります。


ホ 血圧の測定

血圧とは心臓から送り出された血液が、血管に与える圧力のことです。
心臓が収縮して血液を全身に送り出したときの圧力を、最大血圧(収縮期血圧)といいます。一方、心臓が拡張して血液を吸い込んだときの圧力を、最小血圧(拡張期血圧)といいます。収縮期血圧140mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHg以上の場合には、高血圧と判定されます(詳細は、図1血圧判定基準 を参照)。
血圧の高い状態が続けば脳卒中、心臓病、腎臓病などにかかりやすくなります。血圧を高くしないためには、塩分を控え、ストレス、肥満、過労などに注意が必要です。低血圧は自覚症状がなければ支障ありませんが規則正しい日常生活が望まれます。

(図1)
血圧判定基準の図


ヘ 貧血検査(血色素量、赤血球数)

赤血球は、身体の細胞に酸素を運び、不要な炭酸ガスを運び去る働きをしています。貧血とは、赤血球数やヘモグロビン量が少なくなり、からだの各組織へ酸素がうまく運搬されない状態をいいます。逆に多い場合は、血液の流れが悪くなり、血管がつまりやすくなります。


ト 肝機能検査(GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP)

肝臓はたくさんの複雑な働きをしているため、その機能を調べるためには、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断することが必要です。
GOT(AST)、GPT(ALT)の増加は、肝炎、肝硬変、脂肪肝などの肝臓の組織に障害を意味し100U/Lを超える異常は活動性肝炎のことも多く治療が必要です。
γ−GTPは主に腎臓、膵臓、肝臓などの上皮細胞に含まれる酵素で、その増加は、上記疾患以外に胆石などの胆道疾患やアルコール常飲者に見られます。節酒、休肝日の設定が必要です。
肝機能低下の主な原因としては、以下のものが多いようです。

(1)ウイルス性肝炎:

肝炎をおこすウイルスとして、A・B・C・D・E型などがあります。

(2)アルコール性肝炎:

長年アルコールを多量に飲み続けることによっておこります。断酒することで症状は改善しますが、そのまま飲み続けるとアルコール性の肝硬変に至ることも。

(3)脂 肪 肝 :

肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積されておこるもので、酒をよく飲む人、肥満の人にみられます。断酒、減量などで改善します。

チ 血中脂質検査(総コレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)

血液中のコレステロールが増えると、血管の内側に付着し動脈硬化を引き起こし、高血圧症、心筋梗塞、狭心症の原因となります。
HDLは、「善玉」コレステロールです。HDLが少ない場合には、運動(1日1万歩程度歩くのが有効)や禁煙により改善されます。また、適度なアルコール摂取(2合程度まで)でも増加します。
中性脂肪とは、体内脂肪のひとつで、身体のエネルギー源として使われ、余った場合に皮下脂肪となりますが、過剰に貯められた場合、血液中に放出され上昇します。


リ 血糖検査(血中グルコース量またはヘモグロビンA1Cのいずれか)

糖尿病の診断に欠かせない検査です。 糖尿病は膵臓から分泌されるインシュリンというホルモンの作用が不足して起きる病気です。インシュリンが不足すると血液中にブドウ糖があふれ高血糖となり、この高血糖状態が続くのが糖尿病です。
空腹時の血糖値が140mg/dl以上または、食後2時間の血糖値が200mg/dl以上であれば糖尿病型と診断されます。また、空腹時の血糖値が110mg/dl以上または、負荷2時間後の血糖値が140mg/dl以上の場合は、耐糖能異常と呼ばれ将来糖尿病に進行する可能性がありますので、カロリー過剰摂取や肥満に注意し年1回〜2回定期的に血糖検査を受けるようにしましょう。
ヘモグロビンA1Cは、赤血球中に含まれるヘモグロビンと、ブドウ糖が結合したもので、長期間(1〜3ヶ月前)の血糖状態を観察するのに有効です。食事の影響を受けないため現在糖尿病の診断のための重要な検査となっています。


ヌ 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)

尿には通常蛋白は出てきませんが、腎臓に障害が起こると、尿中に蛋白質が漏れ出てしまいます。尿蛋白陽性は、腎臓病発見の手がかりとなります。なお、激しい運動や入浴後、精神的な興奮やストレス、寒さ・暑さ、女性は生理前後などにも陽性(+)反応が出る場合があります。尿蛋白検査だけでは腎臓の病気を判断することはできませんので、陽性になったら詳しい検査が必要となります。
尿糖検査は糖尿病発見の手がかりとなります。
糖尿病で血糖値が高くなると尿に糖が出るようになります。ただし、食後や激しい運動の後やストレスなどでも一次的に陽性になる場合があります。また、腎性尿糖といって血糖値が高くないのに尿糖が陽性になる場合や、それとは逆に、血糖値が高くても尿糖が陰性になる場合などもありますので、尿糖の結果だけで糖尿病について自己判断するのは非常に危険です。尿糖が陽性の場合は血糖検査を行う必要があります。


ル 心電図検査(安静時心電図検査)

心臓の動きにより発生する電流を体の表面から検出し、不整脈(心臓の収縮するリズムの乱れ)や心肥大・狭心症などの有無を調べます。


※執筆:日野 義之   (財団法人 西日本産業衛生会 健康管理部 部長)
  監修:大久保利晃   (産業医科大学 副学長)