メンタルヘルスの手引き【管理者研修用】                             精神科医 秋山 剛

 

 

T.はじめに

1.こころの健康とビジネスセンス

企業では、こころの健康づくりへの配慮が欠かせません。こころの健康づくりは難しいようですが、リスクを適切に担保するビジネスセンスと、基本的は同じです。

 

 

2.4つの誤解

こころの健康には、ありがちな誤解が4つあります。

@       こころの健康不全なんて、自分には関係ない。

A       こころの健康不全が起きるのは、誰かの責任だ。

B       こころの健康不全は治らない。

C       薬に頼らせたくない。

どうですか?こんな誤解をしていませんか?

 

@ こころの健康不全なんて、自分には関係ない。

こころの健康不全の代表選手、「うつ病」は、人口の10〜30%に起きます。「統合失調症」は、人口の1%に起きるといわます。他に、自律神経失調症、アルコール依存、摂食障害、不安障害、認知症など、いろいろな病気があります。こころの健康不全は身近なもので、ヒラ社員から、社長、会長に至るまで、どんな人にでも起きます。

 

A こころの健康不全が起きるのは、誰かの責任だ。

人間は複雑な存在で、病気の原因は多様です。「体質」「性格」「プライベートのストレス」「職場のストレス」――いろいろな原因が複雑に関係しています。「誰の責任か」を考えるより、専門家(嘱託精神科医)に対応策を相談しましょう。

 

B こころの健康不全は治らない

こころの健康不全の治療には時間がかかりますし、注意しないと再発することもあります。しかし、治らない病気ではありません。最近は、よい薬、治療法がいろいろ開発されています。

 

C 薬に頼らせたくない。

「こころの健康不全はたるみだ」などと、誤解していませんか?「薬を飲んでいると病気になる」という人もいますが、これも理屈が逆立ちしています。「病気の再発を防ぐために」薬をのんでもらうことがよくあります。薬の必要性はケースバイケースです。

 

 

3. 4つの悪影響

こころの健康に問題が起きると、職場での業務に4つの悪影響が出ます。

 

@       作業能率の低下

A       長期休務

B       周囲への影響

C       経済的負担

 

@    作業能率の低下

こころの健康不全が起きると、作業能率が低下し、ミスや事故が起きやすくなります。

 

A    長期休務

こころの健康不全を早期に把握できないと、問題が悪化し、社員が長期に休まなければならなくなります。

 

B    周囲への影響

こころの健康不全が起きると、周囲に影響が出ます。休んだ社員の分の仕事が負担になるのはもちろんですが、「なんであの人がこころの健康不全になったのか」「自分の接し方が悪かったのか、会社の処遇が悪かったのか」などと、考えこむ場合もあります。

 

C    経済的負担

長期の休みとなれば、治療費や休み中の給与、手当などの負担が生じます。それだけではありません。現在は、長時間労働(月80時間以上)させていて過労死が生じれば、労災と認められますし、会社が安全配慮義務違反で責任を追及されることもあります。「法令遵守」「環境保全」と同様、「こころの健康ケア」は、企業にとっては、必要な対応なのです。

 

 

 

U.性格

1.性格とストレス

最近、性格によってストレスの受け方が違うことが、明らかになりました。社員に、自分の性格特徴を把握させて、適切な備えをしてもらうことが大切です。

 

人間の性格は、「いらいらタイプ」「気分屋タイプ」「心配性タイプ」「悲観タイプ」「おたくタイプ」「きまじめタイプ」「バリバリタイプ」に分かれます。

 

「いらいらタイプ」とは、緊張が高く、不満がちで、かっとしやすい性格です。

 

「気分屋タイプ」とは、気分がいい時と悪い時、元気な時とそうでない時の波が激しい性格です。

 

「心配性タイプ」とは、神経過敏で下痢、吐き気などの症状が出やすく、「家族に悪いことが起こりはしないか」と先々のことを心配する性格です。

 

「悲観タイプ」とは、「疲れた」「自分は落伍者だ」「仕事ができない」と後ろ向きで、自分を責めたり、悲観的な結論を出してしまう性格です。

 

「おたくタイプ」とは、他人と親しくせず、浮世離れしたことに興味をもつ性格です。

 

「きまじめタイプ」とは、「仕事第一」「細かいことまで完璧にやらないと気がすまない」という性格で、「メランコリー型性格」とも言われます。

 

「バリバリタイプ」とは、いろいろなアイディアを思いつき、「物事はうまくいく」と楽観的で、他人をまとめるのが好きな性格です。

 

 

2.各タイプと職場適応

6つのタイプの中で、一番職場不適応を起こしやすいのは「いらいらタイプ」で、「気分屋タイプ」「心配性タイプ」の人がそれに次ぎます。特にストレスを感じやすいのは、「自分の役割は何なのか?」「他人とぶつかる」「人間関係がうまくいかない」「実力が発揮できない」「周りが自分を助けてくれない」といった対人関係です。

 

これらの性格の人は、「愚痴」を聴いてもらうことが大切です。能力を越えた課題、困難な課題にチャレンジさえるときは、同僚や上司のフォローが大切です。

 

「おたくタイプ」は、マイペースに仕事を進める傾向があります。一見、人間関係に超然としていますが、「周りが自分を助けてくれない」というストレスには、敏感です。「おたくタイプ」の人がつぶれてうつになると、長期化しがちです。「おたくタイプ」の人が周りにいたら、相手からあまり反応がなくても、ときどき「困ってないか?」と声をかけてあげましょう。「おたくタイプ」の人自身は、何人か話ができる友人を作るようにしましょう。

 

「きまじめタイプ」は人付き合いがうまく、人間関係ではあまりストレスを感じません。ただ、そのため、結果的に仕事を背負いすぎる傾向があります。

 

「バリバリタイプ」の人は、「きまじめタイプ」以上に、人間関係のストレスを感じません。自分の実力を売り込み、リーダーシップを取り、他人に助けを求めるのも遠慮しません。しかし結果的に、仕事をどんどん引き受け、非常に多忙になりがちです。この性格の人は、一般的には、うつになりにくいのですが、強気のかげで、緊張感や不安に悩み、酒や睡眠薬でまぎらわすことがあります。また、一旦うつ病になった場合は、元々が強気な性格だけに立ち直りにくいことがあります。

 

 

3.相性

人間は自分とタイプが似た人はよく理解できます。管理職になる人は、「バリバリタイプ」「きまじめタイプ」の人が多く、「悲観タイプ」「心配性タイプ」「おたくタイプ」が少ないようです。自分とタイプが異なる人を理解するために、この資料などを参考にしてください。また、タイプが異なる人と話をする際には、特に「話を聴く」ことを心がけください。それでもコミュニケーションがとりにくい場合は、第三者を介して話を聞いてください。「何かの時にチャンネルがある」ことは、大切なメンタルケアです。

 

4.認知療法

人間が、自分の性格を根本的に変えるのは難しいことです。しかし、自分の「考え方」「感じ方」のクセを理解して、ものごとを「悪い方」にとって、気持ちが空回りしないようにすることはできます。これを、「認知療法」といいます。他の先進諸国では、広く用いられている治療ですが、日本でも少しずつ取り入れられています。

 

 

 

V.こころの健康の対応策

1.雰囲気づくり

「お互い一生懸命仕事をしよう。でも、体調が変かなと思ったら、専門家に相談しよう」という雰囲気が大切です。職場のメンタルヘルスの原則は、この一言につきます。

 

 

2.傾聴・共感

ビジネスに、困難はつきものです。ストレスがない仕事はありません。大切なことは、「自分だけが難しいことを押しつけられている」と思ってしまう状況を避けることです。愚痴を聞き、よい解決策がすぐに浮かばなくても、「相手が話は聞いてくれて、気持ちは分かってくれた」「一緒に考えてもらえた」などと感じれば、こころの健康上非常に有効です。ただし、管理職の場合、部下の言い分を全部のめないことが多いですから、傾聴や共感しながら、「具体的なことについては考えさせてほしい」と、傾聴・共感とマネジメントを使い分けます。

 

 

3.多忙時の注意

「多忙時」には、「負荷が公平に分担されているか」「可能な指示や援助が与えられているか」「多忙な時期のメドが、説明されているか」が大切です。肩こり、眼の疲れ、下痢、便秘、吐き気、頭痛、腹痛など自律神経症状がみられ始めたら、黄色信号です。そのままにしておくと、本格的な問題が発生する危険性があります。

 

 

 

W.こころの健康の早期発見

1.うつ病の「よしのやサイン」

職場のこころの健康で一番よく起きる「うつ病」の、「よしのやサイン」を説明しましょう。

 

よ 弱気

し 失敗

の 能率低下

や 休み

 

弱気

うつになると、悲観的になって、「自分には出来ない」「仕事をやめるしかない」などと、弱気な発言が見られます。

 

失敗

集中力が低下し、疲れやすくなるために、失敗が多くなります。

 

能率低下

考えがまとまりにくく、ゆっくりとしか進まないため、作業能率が低下します。

 

休み

休みがちになります。こういう状態になったら、仕事に出たり、休んだりしているより、早めにきちんと休んだ方が、得策です。無理に働いていると、状態が悪化し、長期の休みになってしまいます。

 

 

2.仕事への差し障り

職場の人は、こころの健康の専門家ではありませんし、専門家になる必要もありません。「うつ病のサイン」に限らず、こころの健康の問題点を把握するには、「仕事への差し障りが出ているか」をお互いに把握し、専門家への相談を促せばよいのです。つまり、管理者は、きちんとした業務管理を行えばよいのです。そうして、問題がありそうだったら、専門家に相談してもらえばよいのです。

 

 

3.専門家への相談の勧め方

こころの健康と「体調」は、密接に関係しています。「こころの健康」という言葉を使う必要はありません。「体調の変化」で十分です。作業能率が低下している、ポカ休が続いている、職場での様子に変化があるなどの「事実」を指摘して、「体調の変化があるかもしれないから、専門家に相談した方がよいのでは?」と勧めてください。

 

4.管理者自身の相談・情報の伝達

もし部下が受診しなければ、管理者が健康管理スタッフに相談してください。健康管理スタッフに情報を円滑に伝えることが、大切です。

 

 

 

X.事例発生後の対応

どんなに注意していても、こころの健康不全は発生します。リスクがリスクをうまないように、不適応状態発生後は、あわてず、以下のように対応してください。

 

1.一人でかかえない

ときに、こころの健康不全の部下を自分でかかえようとする管理者や同僚がみられます。しかし、こころの健康不全は、管理者や同僚が一人でかかえられものではありません。傾聴・共感を示しながら専門家に連れていけば満点です。

 

2.プライバシーへの配慮

こころの健康に関する情報は社員本人のプライバシーであり、本人の処遇に関わる管理者や人事担当者以外に漏らしてはいけません。職場に説明する場合がむずかしいのですが、本人に「**と説明するから」とあらかじめ話しておいた方がよいでしょう。

 

3.内緒の相談をしない

社員への健康管理や治療が開始されたら、「内緒で話を聞きたい」と、本人に隠れて専門家に相談しないでください。医療関係者には守秘義務がありますから、本人の了解がなければ相談には応じられません。

 

4.本人の了解・一緒の面接

相談したいときは、本人の了解を得てください。「あなたへの配慮をどうしたらよいか相談したい」と言えば、ほとんどの場合本人の了解が得られます。

 

5.配置転換に関する注意事項

職場でメンタルヘルス不適応状態が発生した場合、本人が配置転換を希望することが、しばしばあります。しかし、作業時間・内容、職場の対人関係、本人の能力や脆弱性などが不適応状態の発生にどう寄与しているかは、非常に複雑な問題です。配置転換後職場に適応できる、妥当な根拠があるかどうか、慎重な検討を要します。

 

 

 

Y.専門家の役割

 

健康管理の専門家としては、嘱託精神科医、Employee Assistance Program (EAP)、産業医、保健師・看護師、主治医があります。

 

1.嘱託精神科医

産業メンタルヘルスをうまく行う一つの方法は、「よい嘱託精神科医にアドバイスしてもらうこと」です。人事や労務の方にアドバイスできる嘱託精神科医をお探しでしたら、ご相談下さい。(akiyama@east.ntt.co.jp

 

2.Employee Assistance Program (EAP)

EAPは、本人に対するカウンセリングなどを行います。様々なところがありますが、私は、全国の事業所をカバーしてくれる「現場(出前)カウンセリング」、管理者や人事・労務、健康管理スタッフへのコンサルテーションをしてくれるヒューマンフロンティア(03-3519-4493 URL/http://haig.jp/hf)をお勧めしています。(スライド)

 

3.産業医

産業医は、健康管理への指導、治療の必要性・軽減勤務・休務についての指示を行わなければなりません。しかし、メンタルヘルスに詳しい産業医は少ないのが実情です。嘱託精神科医のアドバイスがあれば、産業医が適切な指示を出すことができます。

 

4.保健師・看護師

保健師・看護師の役割は、社員、管理者に対する窓口になり、啓発活動、職場巡回、定期健康診断での指導を行います。検討点は、すべての事業所に保健師・看護師を配置するのがむずかしいこと、メンタルヘルスができる保健師・看護師の確保がむずかしいことです。

 

5.社外主治医

社員の治療は、通常社外の主治医によって行われます。しかし、社外主治医は企業の状況を知りませんし、本人の病状などについては、管理者に余り情報を伝えてくれないことが多いでしょう。

 

 

 

Z.リハビリテーション上の注意

こころの健康不全になった社員が、リハビリテーションを経て職場復帰する際には、嘱託精神科医のアドバイスにしたがって、管理者、産業医がフォローアップします。

 

1.職場復帰する際の基準

こころの健康不全からの職場復帰を適切と判断する基準は、次のようなものです。

@.不適応状態が改善している

A.予想される作業を行う能力がある

B.予想される作業を行った場合、不適応状態が再発、悪化しない

C.職場で迷惑行為がない

 

2.職場復帰の判断

嘱託精神科医がいれば、主治医や本人からの情報聴取、リハビリ出社をさせてもよいかなどについて、アドバイスをしてくれます。そのうえで、嘱託精神科医の判断し、産業医が指示を行います。

 

3.目標を明確にする

こころの健康不全から職場復帰する場合、出社時間、作業内容、作業量などについての枠組み、目標を明確にすることが大切です。生活のリズムを整えるために、出社時間を守って規則正しく職場に来るよう助言します。

 

 

 

[.こころの健康とアサーショントレーニング 

日本人は、もともと、傾聴、共感は比較的得意であると思います。

 

しかし、日本では、従来、「自分の意見をきちんと相手に伝える」というアサーショントレーニングが軽視されていると思います。(私が子供の頃には、学校教育の中に、こういう訓練はまったくありませんでした)

 

職場では、「自分の意見をきちんと相手に伝える」ことが大切です。「遠慮して言いたいことを言わない」でもなく、「居丈高に自分の主張を押し付ける」でもなく、「相手の言い分に耳を傾けたうえで、自分の意見を伝える」のがアサーションです。

 

現在、アサーショントレーニングを提供してくれるところが、少しずつでてきています。ヒューマンフロンティアでも行っています。検討してみてはいかがですか?

 

 

 

 

【付録】

T.職場でみられる変調のサインの例

部下との関わりにおいて、傾聴や共感を心がけていると、変調のサインを把握しやすくなります。部下の状態が「いつもと違う」と感じたら、話を聴き、必要に応じて健康管理部門へ相談に行くように勧めて下さい。

 

                       遅刻、早退、休暇が増える

                       無断欠勤がある

                       残業、休日出勤が不釣り合いに増える

                       仕事の能率が下がり、ミスが目立つ

                       仕事の結果がなかなか出てこない

                       報告や相談、職場での会話がなくなる

                       表情に元気がなく、動作にも元気がない

                       不自然な言動(態度が落ち着かない、話が飛び脈絡がない、口数が多く

騒ぎたてる、些細なことに腹をたてる、性急な決断を下そうとする等)

が目立つ

                       薬(風邪薬、胃腸薬、栄養剤等)の服用が増える

                       服装が乱れる

 

 

 

U.精神的なショックを起こす出来事の例

また、職場や職場以外で強い精神的ショックを伴う出来事を体験した部下に、その出来事が引き金となって変調のサインが現れることがあります。強い心理的負荷をもたらす出来事があった場合には、部下を注意深く見守り、変化があれば健康管理部門へ相談して下さい。

 

厚生労働省の「心理的負荷による精神障害等にかかる業務上外の判断指針」では、強い心理的負荷をもたらす出来事として次のような例が示されています。

 

1.職場での出来事の例

                       事故、災害により大きなケガや病気をした

                       労働災害(重大な人身事故、重大事故)の発生に直接関与した

                       交通事故(重大な人身事故、重大事故)を起こした

                       会社にとって重大な仕事上のミスをした

  

2.職場以外での出来事の例

                       離婚、別居

                       自分が重い病気やケガをした、又は流産した

                       配偶者、子供等が重い病気やケガをした、又は死亡した

                       親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た

                       多額の財産を損失した、又は突然大きな支出があった

                       天災や火災などにあった、又は犯罪に巻き込まれた

 

 

V.メンタルヘルス関連の不適応状態

「メンタルヘルス関連の不適応状態」の基礎知識を、3つに分類して述べます。

 

1.一般的事象(誰にでも起きる事象)

生き甲斐や仕事についての悩み・不満など、ほとんどすべての人に起きます。これに伴って、ごく軽度の不眠や不安がみられることがあります。訴えには、仕事上のストレスが関連しますが、家族関係などプライベートな生活でのストレスを伴っていることもあります。

 

2.多忙時の軽度の症状

多忙時には、多くの人に、肩凝り、眼精疲労、下痢、便秘、吐き気、嘔吐、鼓腸、頭痛、腹痛、背部痛などの自律神経症状がみられます。こういった例では、残業の制限など、作業負荷を軽減すれば症状は改善します。

 

3.専門医の受診が望ましい状態

 

以下に述べる状態については、専門医の受診が望ましいでしょう。現在では治療が進んでいて、適切な治療を受ければ、症状が改善し職務を継続できる場合が多いのです。

 

@ 睡眠障害

軽度の入眠困難には、「コーヒー・ニコチンの摂取を控える、就眠前に暖かい風呂に入る、早朝運動する」などの睡眠健康法で対処します。これで改善しなければ、短時間作用型の睡眠薬を用います。

 

A 自律神経失調症

過度の作業負荷、身体疾患がないのに、肩凝り、眼精疲労、下痢、便秘、吐き気、嘔吐、鼓腸、頭痛、腹痛、背部痛などの自律神経症状が持続する場合は、自律神経失調症と診断されます。症状は一見軽微ですが、改善しにくい場合があります。

 

B 心身症

心理的なストレスで、胃潰瘍、過敏性大腸炎などの内科疾患が生ずることがあり、心身症と呼ばれます。心療内科医の受診を勧めます。

 

C 神経症

不潔恐怖・手洗い強迫、パニック発作(急性の強い不安発作)・外出恐怖、人前で話せないなどの症状がみられます。抗不安薬や、カウンセリングが有効です。

 

D 摂食障害

食事をとらない拒食とむちゃ食いをする過食に分かれますが、共通しているのは体型へのこだわりです。過食がある人は、太らないように、嘔吐、断食、下剤の使用、過度の運動などをします。摂食障害には軽症から重症までかなり幅があり、薬剤は余り効果がありません。本人や家族全体に対するカウンセリングが行われます。

 

E アルコール依存症

飲み始めると当初のつもりよりも大量に摂取してしまう、酩酊するのにより大量のアルコールを必要とする、社会的・職業的活動への支障や身体的障害を来す、アルコール離脱症状(手がふるえる、意識障害)、などの症状がみられます。「断酒会」や「AA Alcoholic Anonymous」などの自助グループに導入します。抗酒剤も用いられます。

 

F うつ病

憂うつ気分、興味の喪失、集中困難、睡眠障害、食思不振、じっとしていられない、自責、自殺念慮などの症状がみられます。軽度のうつ症状は、よくみられます。うつ症状の多くは外来治療で改善しますが、日常生活が困難になったり、自殺念慮が強まると、入院治療が必要になります。抗うつ薬が、用いられます。

 

G 躁病

気分の高揚、誇大な自尊心、多弁、浪費、無分別な行動などの症状がみられます。躁症状があると、周囲とのトラブルが起きるので入院治療が必要となりがちです。精神安定剤や気分調整薬が用いられます。

 

H 統合失調症

幻聴、妄想、持続的な緊張状態などの症状がみられます。作業能力の低下を伴うことが多いのですが、節制して十分な睡眠時間や休養を確保すれば、かなり高度な作業を行える場合もあります。入院治療が必要になることがありますが、精神安定剤の服用によって症状は安定します。