OHSAS 18001 利用の手引き


OHSAS 18001が登場する背景
 マネジメントシステムの規格は、英国の国家規格であるBS 5750(Quality systems)のPart 1が1987年にISO 9001規格になったのが、国際的に登場した発端と言えるでしょう。それに次いで、英国の国家規格BS 7750(Environmental management systems)がベースになり、環境マネジメントシステムの国際規格であるISO 14001が1996年に誕生しました。

 マネジメントシステムの規格がISOのヒット製品になったのを受けて、次にニーズがあると思われる「労働安全衛生マネジメントシステム(OHSMS)」の国際規格化が1994年にカナダから提案されています。このとき参考にされたのが、やはり英国の国家規格BS 8800(Guide to occupational health and safety management systems)です。これが実現すれば、ISO 16000シリーズが割り当てられることになっていたようです。
 しかし、1996年9月にロンドンで開催されたISOワーキンググループでは「時期尚早」との意見が多く、国際規格化の是非の最終判断はTMB(技術管理評議会)に委ねられ、結局、1997年2月になって正式に検討の棚上げ(見送り)が決まったのです。
 その理由として

·  1.労働安全衛生の分野はそれぞれの国民性、文化に負う側面が多く、調整が難航する

·  2.規制緩和が進む一方で、新たな標準化をすればその流れに逆行する

·  3.標準化に伴うコストを考慮すると、普及する見通しがつかない

などが上げられ、参加国の過半数が反対しました。

 日本でも通産省(当時)は推進する立場を示す一方、労働省(当時)・中央労働災害防止協会、日経連、連合などは「時期尚早」として賛成していませんでした。とはいえ労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格化ニーズがまったくないわけではないので、いずれまた俎板(まないた)に載せられるかも知れません。そのとき、この国際規格化は引き続きISOが取扱うのか、ILO(国際労働機構)になるのか、懸案事項になっています。

 日本国内においても1999年4月に「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」が労働省告示第53号として発表されています。これは仕様規格ではないため、審査登録制度に用いることを意図したものではありません。

ISO 14001のPDCAモデル
 労働安全衛生マネジメントシステムの規格は、国際的コンソーシアムによってOHSAS 18001(Occupational health and safety management systems−Specifications)として開発されました。審査登録制度に使える労働安全衛生のシステム規格がぜひ欲しい、という各国関係者からの強い要請を受けて作られたものです。

 これにはアイルランド、南アフリカ、英国、日本の規格協会のほか、DNV、ロイド、SFS、SGS、TUVなどの審査登録機関、中央労働災害防止協会、高圧ガス保安協会、テクノファ、その他の有志機関が参加しました。したがってこの規格はISOの国際規格になっているわけではありません。

 JAB(日本適合性認定協会)は国際規格にならないと取り扱わないようなので、JABから認定を受けたOHSAS 18001の審査登録機関というのは存在しません。審査登録を受ける場合には、UKAS(英国)やRvA(オランダ)など海外の認定機関から認定を受けた審査登録機関を選ぶ必要があります(または承知の上で無認定の審査登録機関を選ぶことになります)。

 このOHSAS 18001は1999年4月に発行され、BS 8800を参考にしてISO 14001(1996年版)とISO 9001(1994年版)との両立性を意識して開発されました。とりわけ、規格要求事項や規格構成の上ではISO 14001と類似性が高いものになっており、P(Plan)−D(Do)−C(Check)−A(Act)のパートに分けて規格が書かれています。

 ベースになったISO 14001は、その後の2004年11月に改訂されましたので、両規格の両立性・整合性を確保するためにOHSAS 18001の内容もそれに合わせて改訂作業が始められているようです。また、この機会にあわせて、英国規格協会ではISO事務局に対して労働安全衛生マネジメントシステムを国際規格化するために、再度WG(作業委員会)の設置を提案しているもようです。
 日本規格協会ではOHSAS翻訳委員会と合同で、2005年6月に改訂作業について検討する準備に入ったとされています。さらに、厚生労働省、経済産業省、その他の関係機関と情報交換を行い、今後の対応を協議するようです。

 その結果としてOHSAS 18001(1999年版)がいつどのように改訂されるのか、あるいはどのような規格に変るのか確かなことは分かりませんが、ISO 14001(2004年版)と類似した改訂内容になるのではないか、と思われます。2006年夏ごろまでにはOHSAS 18001改訂版のドラフトが発行されると見られています。

 また、大きな流れとして、OHSMSのISO規格化がまた審議されています。これまでISO規格化については2回僅差で否決されていますが、前回までは反対していた国が賛成に回る動きもあり、情勢が規格化賛成過半数に変るかも知れません。

規格のシリーズ
 OHSAS 18000シリーズ規格には次の2つがあります。

OHSAS 18001:1999

労働安全衛生マネジメントシステム−仕様

OHSAS 18002:2000

労働安全衛生マネジメントシステム−OHSAS 18001の実施のための指針


労働安全衛生マネジメントシステム要求事項−仕様

 以下に示す内容は、OHSAS 18001の概要・概説です。とくに黒字で記載した部分は要求事項を説明したものであり、青字で記載した部分はシステム構築・実施運用のための解説・コメントです。
 規格の内容そのものは、OHSAS 18001(労働安全衛生マネジメントシステム要求事項−仕様)を参照ください。

1 適用範囲

(概要は省略)目を通すべき内容が書かれているため、OHSAS 18001の規格を参照すること。

 職場の労働安全衛生のリスクを管理し、そのパフォーマンス(労働安全衛生マネジメントシステムによって労災や事故がどのくらい低減されたかの成果・出来ばえ・実績のこと、3 用語と定義 3.13を参照)を向上させるためにこの規格が使えるとして、どのような適用が出来るか箇条書きされている。その内容はISO 14001の「適用範囲」に書かれていることと類似しており、審査登録のためのほか、自己宣言(自己適合宣言)にも利用できることが示唆されている。

 自己宣言の事例はISO 14001ではちらほら見られるが、OHSAS 18001に適合していることの自己宣言はまだ事例がない。OHSAS 18001の認証を取得する方法はとらず、自主的にこの規格を利用し、この規格への適合性を自らの責任で検証・評価し、経営者が対内的・対外的に適合宣言する道もあるわけ。そうすれば審査登録のための費用はかからずに済み、職場の労災や事故の低減・防止に役立てられるのではないか、と思われる。

2 参考出版物

OHSAS 18002

労働安全衛生マネジメントシステム−OHSAS 18001の実施のための指針

BS 8800

労働安全衛生マネジメントシステムの指針

3 用語と定義

3.1 事故

死亡、病気、傷害、損害、他の損失をもたらす、望まれない出来事。
事故は望まない「結果」としての出来事であり、労災もこれに含まれる。

3.2 監査

計画した仕組み(取決め)の適合性と有効性を明らかにし、方針と目標を達成するのに適したものであるか否かを決定するための体系的な検証。
ISO 14001の用語の定義と必ずしも一致していない。監査に関する規格にはISO 19011:2002(品質及び/又は環境マネジメントシステム監査のための指針)があるが、当然そこに規定された用語の定義(監査基準が満たされている程度の判定)とも一致しない。しかしながら「適合性」と「有効性」を見極め、方針と目標の達成に適したシステムになっているかを検証するのが監査であるという定義は、分かりやすい。

3.3 継続的改善

労働安全衛生方針に沿って、全体的な労働安全衛生パフォーマンスの改善を達成するための労働安全衛生マネジメントシステムを向上させるプロセス。
継続的改善とはあくまでも「システム」を継続的に向上させることであり、労災や事故を○○%減らしたとか、不休傷害××時間達成というようなパフォーマンスの改善を指すわけではない。しかしシステムの有効性・完成度を高める継続的改善を推進することによって、結果としては労働安全衛生のパフォーマンスの改善につながっていくものでなければならない。
なお、継続的に(continual)とは、一瞬たりとも中断することなく連続して(continuous)という意味ではなく、段階を追って一歩一歩進めるという意味である。

3.4 危険源

傷害又は疾病、財産の損害、職場環境の損害、又はそれらの組合せの面からの危害をもたらしうる潜在的な源や状況。
危険源はハザード(hazard)と呼ばれ、危害が潜んでいそうな源や状況のことである。たとえば喫煙は肺癌のモト(危険源)になり、濡れた道路はスリップ事故のモトになる。ただし、そのような危険源が潜んでいるからといって、疾病・傷害・損失などの危害をもたらすわけでは必ずしもなく、何事もなかったように無事に済むこともある。

3.5 危険源の特定

危険源の存在を認識し、かつその特性を明確にするプロセス。
ISO 14001で言う「環境側面の特定」という言い回しと類似している。危険源の特定では、どのような危険源がどこにあるかを明らかにするだけではなく、その特性(危険源の性質・種類、発生の可能性、結果の重大性など)を明確にすることまで意味する。

3.6 事故誘因

事故につながるか、又は事故をもたらす潜在性をもった出来事。備考には「疾病、傷害、損害、他の損失に至らない事故誘因は、“ニアミス”と呼ばれる。事故誘因の用語には、“ニアミス”も含む」と書かれている。
危険源があるだけでは必ずしも事故という結果をもたらさず、事故誘因があって事故につながる。そのため危険源に対して事故がどのようにして発生するかを考える必要がある。事故誘因(incident)もひとつの出来事(事象)であり、これに含まれるニアミスは「ヒヤリハット」を髣髴させる。
たとえば階段は(結果として)滑ってケガをしたりギックリ腰になる危険源であるが、それだけでは事故にならない。事故になるためには、階段が濡れて滑りやすくなっているとか、物を担いで足元が不案内になっている、飲酒して酩酊していた等の事故を誘発する事象が必要になる。
ハインリッヒの法則も参照のこと。

3.7 利害関係者

組織の労働安全衛生パフォーマンスに関心をもつか又はそれに影響を受ける個人又は団体。
必ずしも従業員だけが利害関係者ではないことに注意しよう。

3.8 不適合

作業標準、慣行、手順、規則、マネジメントシステムパフォーマンスなどのいかなる逸脱も含むもので、傷病、財産の損害、職場環境の損害、又はそれらの組み合わせを、直接的又は間接的に引き起こしうるもの。
ここでは不適合が具体的に細かく定義されている。ISO 9000:2000やISO 14001:2004で定義されている「要求事項を満たしていないこと」とは異なる。

3.9 目標

労働安全衛生パフォーマンスに関して、組織(事業場)が自ら設定する到達点。
ISO 14001では目的・目標が求められているが、OHSAS 18001では目的というのはなく、目標だけである(この点はISO 9001と同じである)。もっともOHSAS 18001の目標は、ISO 14001の目的と同じ位置づけになる。
なお、規格の本文(4.3.3)には「目標は実施可能な限り定量化することが望ましい」と備考に書かれている。

3.10 労働安全衛生

従業員、臨時雇用労働者、請負者、来訪者、及び職場内にいるその他すべての関係者の健全に影響を与える諸条件及び諸要因。
労働安全衛生の対象者は広い。

3.11 労働安全衛生マネジメントシステム

組織の全般的なマネジメントシステムの一部で、労働安全衛生リスクを運営管理を促進するものであり、方針を策定し、それを実施し、達成し、見直しし、維持するための組織体制・計画策定・責任・慣行・手順・プロセス・資源を含む。
マネジメントシステムは一般に「方針・目標を定め、それを達成するシステム」である。したがって最高経営層によるマネジメントシステムの見直し(マネジメントレビュー)では、システムがそのような合理的なものになっているかどうかを経営者の目で点検することになる。

3.12 組織

法人であるか否か、公的か私的かを問わず、それ自体の機能及び管理体制をもつ企業、会社、事業所、官公庁又は協会、若しくはその一部。
ISO 14001:1996にある用語の定義と同じであるが、ISO 9000:2000の用語の定義とは異なる。事業場も事業者も組織と定義付けることが可能である。分散した工場や事業所をそれぞれひとつの組織として、労働安全衛生マネジメントシステムを構築することができる。

3.13 パフォーマンス

労働安全衛生マネジメントシステムの測定可能な結果。
備考:パフォーマンスの測定には、労働安全衛生マネジメントの活動とその結果の測定も含む。
労働安全衛生マネジメントシステムによって労災や事故がどのくらい低減(改善)されたかの成果(出来ばえ・実績)と受けとめればよい。

3.14 リスク

想定される危険(有害)な事象発生の可能性と結果の組合せ。
どんな危険源と事故誘因があり、それらがどう絡みあい、どのくらいの可能性で、どれだけの事故に結びつくか(結果)の危険性を指す。

3.15 リスクアセスメント

リスクの重大度を見積もり、そのリスクが許容可能か否かを決定する全体的なプロセス。
リスクアセスメントは広義の意味と狭義の意味を併せ持っている。狭義の意味は、単にリスクの確定をするだけを指すが、広義には危険源の特定、リスクの評価・確定、リスク管理策の策定までの一連のプロセスをいう。リスクアセスメントがいずれを指しているかは、注意して読むことが必要だ。
ISO 14001において環境側面を特定し、その環境影響を評価して著しいものを絞り込むプロセスと類似している。

3.16 安全

危害の受容できないリスクがないこと。
受容可能な水準に収まっていれば、安全とみなされる。

3.17 許容可能なリスク

法的義務及び自らの労働安全衛生方針に関連して、組織によって耐えうる水準にまで低減されたリスク。
組織として現実的な水準(ここまで管理できればよいという水準)にまで押さえ込んだリスクのこと。安全なレベルとは異なる。

4 労働安全衛生マネジメントシステムの要素

4.1 一般要求事項
 組織は、労働安全衛生マネジメントシステムを構築し、維持すること。その要求事項は4章に示してある。

 ISO 14001:1996と同様の表現になっており、全般論的な記述となっている。

4.2 労働安全衛生方針
 組織の最高経営層によって承認された労働安全衛生方針が存在しなければならず、その中には全体的な労働安全衛生の目標と、そのパフォーマンスを改善することの約束(コミットメント)を明確に陳述していなければならない。
 また、この方針には次のことが求められている。

·  a) 組織の労働安全衛生のリスクの性質および規模に適っている

·  b) 継続的改善に関する約束(コミットメント)を含む

·  c) 現行の適用可能な労働安全衛生の法的要求事項および組織が同意するその他の要求事項に少なくとも順守する約束(コミットメント)を含む

·  d) 文書化し、実施し、維持する

·  e) 従業員に、各々の労働安全衛生上の義務事項を自覚させる意図を持って周知する

·  f) 利害関係者に入手可能である

·  g) 組織にとって適切で相応しいものであり続けることを確実にするために定期的に見直しをする

 労働安全衛生マネジメントシステムを構築し、実施運用するためには、まずは組織の最高経営層(トップマネジメント)自身が承認した労働安全衛生方針が必要である。この方針に要求されている事項は上記のように箇条書きされておりISO 14001とほぼ同じであるが、OHSAS 18001ではシステムの継続的改善のみならず、パフォーマンスの改善まで「約束」しなければならない点だけは一歩踏み込んだ規定になっている。
 約束(源語はcommitment)のJIS訳は、ISO 14001:2004とISO 9001:2000では「コミットメント」、ISO 14001:1996とOHSAS 18001では約束という表現になっているが、コミットメントは単なる約束(promise)とは違い、意味は重い(確約・公約・誓約に近い)ことに注意がいる。実際、ISO 9001:1987/1994のJIS訳では「責務」となっていた。あとでウヤムヤにしたり、すり替えたり、撤回することのないように、表明したものがコミットメントである。いわば政権公約のマニフェストみたいなものだ。マニフェストも(目に見えるような形で)明々白々にすることを指している。コミットメントは言質に通じる。約束(promise)はたがえても責任は問われないが、組織の最高経営層が表明したコミットメントはそういうわけにはいかないのである。
 約束(コミットメント)は4.4.1(体制及び責任)でも出てくる(ここのJIS訳では「関与」という軽い表現になっているが)。最高経営層には、それだけ重い責任が問われている。

4.3 計画

4.3.1 危険源の特定・リスクアセスメント・リスク管理の計画
 組織は、危険源の継続的な特定、リスクアセスメント、必要な管理手段の実施のための手順を用意すること。

 危険源の継続的な特定、リスクアセスメント、必要な管理手段の実施のための「手順」が求められている。ここでいう継続的な(ongoing)の「オンゴーイング」とは継続させることであり、途絶えたり後退させないことを意味する。

 これらの手順には、次の事項が含まれていること。

·  定常活動および非定常活動

·  職場に出入りするすべての要員(下請負業者と来訪者を含む)の活動

·  組織または他から提供されている職場の設備等

 この手順には定常活動と非定常活動の場合を含めなければならない。OHSAS 18002には考えられる緊急事態の場合も含めるように書かれている。

 これらのリスクアセスメントの結果と管理活動の効果は、労働安全衛生の目標を設定する際に確実に配慮すること。
 したがって目標の設定には、リスク管理活動によってどこまで達成すべきかも含めるようにすること。

 また、この情報は文書化し、常に最新の状態に保つこと。
 危険源の特定とリスクアセスメントの方法は、次のとおりであること。

·  1) 事後活動reactive:問題が起きてからそれに対応した何らかの手を打つこと)ではなく、予防活動proactive:問題が起きる前に先手管理的に未然防止すること)が確実であるよう、その適用範囲、性質、タイミングについて定めること。
事後(reactive)と予防(proactive)については、4.5.1 パフォーマンスの測定とモニタリングも参照のこと)。
こうしたアセスメント(調査)をする場合には、どの範囲(どこ・どの部分)をカバーすべきことなのか、危険源や事故はどんな性質のものか、どのようなタイミングで発生するか、どのような調査方法によるものなのか、が明らかにできる調査帳票(様式)を使うとよい。

·  2) それぞれのリスクには、4.3.3「法的及びその他の要求事項」と4.3.4「労働安全衛生マネジメントシステム」でどんな管理(除去や低減など)を講じるかの「等級分け」と「特定(識別・区分)」をしておくこと。
リスク管理の手段として、もっとも好ましいのは除去(回避)であるが、低減(発生の可能性や結果の重大性を引き下げる)、移転、人身防護具(PPE)の採用などもある。

·  3) リスクアセスメントは、これまでの運用の経験やリスク管理手段の能力に整合したものにすること。

·  4) リスクアセスメントでは、設備の完全管理に必要な要件を決めたり、従業員を含む関係者にどのような教育訓練をすべきかを明らかにしたり、業務・作業の実施運用においてどのような管理をしていくべきかを定めるのに必要なインプット情報を明確にすること。
これにはOHSAS 18002に詳しく書かれており、参考になる。

·  5) リスク管理が有効でタイムリーなものであるようにするために、必要な活動の何をモニタリング(監視)すればよいかを明らかにすること。

 リスクアセスメントでは、リスク管理策を講じた結果として、残存リスクが許容可能かどうかも評価すべきである。リスク管理策がリスクを許容可能なレベルまで低減できているか、二次評価を行い確かめること。
 危険源の特定、リスクアセスメント、リスク管理の見直しは、状況の変化があった場合のほか、あらかじめ定めた時期または間隔で、あるいはマネジメントレビュー(最高経営層による見直し)の結果などを考慮して実施するのがよい。
 リスクアセスメントのアウトプットとして、危険源の特定、特定された危険源に関係するリスクの確定、リスクのレベルと許容水準との関係、リスク管理とモニター手段、リスクの低減目標と実施計画(プログラム)、能力及び訓練などを明らかにするのがよい。詳細はOHSAS 18002を参照のこと。
 なお、ハインリッヒの法則も参考に。

4.3.2 法的及びその他の要求事項
 組織は、適用可能な法的要求事項とその他の労働安全衛生の要求事項を特定し、参照するための手順を用意しなければならない。

 ここの要求事項はISO 14001:1996とほぼ同じ内容となっており、法的要求事項(その他の要求事項を含む)には何があるのか、それを特定する「手順」が求められている。その他の要求事項には、条例・協定・労使協約・覚書・業界の取決めのほか、対外的に公約した順守事項も含まれる。また、それらの情報を関係者に閲覧できるようにしてやることも必要である。

 この情報は最新の状態に保つこと。また、法的およびその他の要求事項についての関連情報を従業員と関係する利害関係者に周知すること。

 こうして特定した労働安全衛生に関する法的要求事項/その他の要求事項は、従業員を含む関係者に周知させる義務がある。

4.3.3 目標
 組織は、組織内の関連する各部門及び階層で、文書化した労働安全衛生の目標を用意しなければならない。
備考:目標は実施可能な限り定量化することが望ましい。

 その目標を設定し見直す場合には、組織は法的およびその他の要求事項、労働安全衛生の危険源とリスク、技術上の選択肢、財政上、運用上、事業上の要求事項、利害関係者の見解に配慮しなければならない。

 危険源とリスク、法的要求事項(その他の要求事項を含む)が特定できれば、それを考慮に入れて達成目標を定め、労働安全衛生マネジメントシステム(4.3.4参照)を作成して取り組めるようにする。この目標設定では、技術上の選択肢、財政上・運用上・事業上の要求事項、利害関係者の見解にも考慮する必要がある。
 この目標はJIS訳では「関連する各部門及び階層」で必要と表現されているが、どの部門・階層でも一様に(すべて)要るというわけではなく、関連するところだけでよい。
 備考には目標は定量化するように書かれており、達成状況が客観的に評価できるためには可能な限りそうすべきである。曖昧で抽象的でキャッチフレーズ的な目標では、得にならない。自分の首を絞めないように、達成状況がどうにでも評価できる曖昧な設定の目標を掲げている組織があるが、何のためのシステムであるかを考えると、結局は損である。

 この目標は、継続的改善の約束を含めて、労働安全衛生方針に整合していること。

 目標は継続的改善の約束(コミットメント)と併せて労働安全衛生方針と整合がとれているようにすること。つまり目標を達成することが、方針に沿うようになればよい。

4.3.4 労働安全衛生マネジメントプログラム
 組織は、目標を達成するための労働安全衛生マネジメントプログラムを策定し、維持すること。これには次の事項を文書化することを含める。

·  a) 関連する各部門及び階層における、目標達成のための指示された責任・権限

·  b) 目標達成のための手段・タイムスケール

 目標を達成するために労働安全衛生マネジメントプログラムを策定する。労働安全衛生マネジメントプログラムとは目標を達成するための実施計画であり、どの目標を達成する取り組みは誰の責任・権限によるものなのか、どんな手段(達成のための施策)と、どんなタイムスケール(工程)で取り組むのか、を明確に指し示してやる必要がある。
 ISO 14001:1996ではタイムフレーム(時間的な枠組み)と表現し、OHSAS 18001ではタイムスケール(時間的な目盛)と変えて記述している点が興味深い。どちらも意味は同じで、どの時点で何をいつまでにどうするか時期と活動を明らかにすることであり、工程を組むようなものである。

 労働安全衛生マネジメントプログラムは、定期的で計画された間隔で見直しをすること。必要な場合には、労働安全衛生マネジメントプログラムは、組織の活動・製品・サービス・運用条件に見合った変更ができるように修正すること。

 このマネジメントプログラムは「定期的」で「計画された」間隔で見直すことが求められている。

4.4 実施及び運用

4.4.1 体制及び責任
 組織は、労働安全衛生マネジメントを促進するために、組織の活動、施設、プロセスの労働安全衛生リスクに影響を及ぼす活動を管理し、遂行し、検証する要員の役割・責任・権限を定め、文書化し、周知すること。

 組織(とくに役員や管理者)には労働安全衛生マネジメントシステムを実施運営し、労働安全衛生リスクを管理して目標を達成し、労働安全衛生パフォーマンスを改善するのに必要な経営資源を投入することが求められている。

 労働安全衛生の最終責任は、最高経営者にある。労働安全衛生マネジメントシステムが組織内で運用されるすべての場所・領域で要求事項が適切に実施され、遂行されることを確実にするために、最高経営層(たとえば大規模組織においては理事や執行委員)から特別な責任をもたせた一員(労働安全衛生管理責任者)を指名する。

 さらに役員や理事など最高経営層の中から管理責任者を任命し、労働安全衛生マネジメントシステムの構築、実施運用、維持を(最高経営層の代表として)務めさせるほか、その実施状況(成果)を最高経営層に報告させることが求められている。

 経営層は、労働安全衛生マネジメントシステムの実施、管理、改善に不可欠な経営資源を用意しなければならない。

 経営資源はヒト・モノ・カネだとよく言われるが、それだけではない。組織体制、技術・技能・技法、手順・基準、ノウハウ・情報、通信・伝達、作業環境、時間などソフト面も整備する必要がある。

 経営層の指名者(労働安全衛生管理責任者)には、次の事項のための明確な役割・責任・権限を付与すること。

·  a) この労働安全衛生の仕様(規格)に従って、労働安全衛生マネジメントシステム要求事項を確立し、実施し、維持することを確実にする。

·  b) 労働安全衛生マネジメントシステムの見直しと改善の基礎とするために、労働安全衛生マネジメントシステムのパフォーマンスを最高経営層に報告することを確実にする。

 経営管理責任を担うすべての者は、労働安全衛生パフォーマンスを継続的に改善することに対する約束(コミットメント)を明示しなければならない。

 JIS訳では「経営管理責任を担うすべての者は、労働安全衛生パフォーマンスの継続的改善への関与を身をもって示さなければならない」となっているが、関与の原語はコミットメントである。最高経営層の面々は、労働安全衛生パフォーマンスを改善することに重要な責務(コミットメント)を負っており、そのことが「身をもって示さなければならない」と訳されているように、はっきりと示す(納得させられる)ことができなければならない。それだけ最高経営層には労働安全衛生に対する強い意識・責務・自覚が求められている。

4.4.2 訓練、自覚及び能力
 職場で労働安全衛生に影響を及ぼす作業を遂行する要員は、能力があること。この能力は適切な教育、訓練、経験という点で明確にしなければならない。

 ここでは労働安全衛生に影響を及ぼす職務(作業)に従事する要員には、それにふさわしい「能力」を持っていることが求められている。能力はISO 9001:2000やISO 14001:2004では「力量」と翻訳されており、「知識及び技能を適用するための実証された能力」つまり職務遂行能力(職能)のことで、適切な教育・訓練・経験などに裏づけされたものでなければならない。

 組織は、関連する各部門及び階層で、そこで働く従業員が次の事項について自覚することを確実にするための手順を用意すること。

·  1) 労働安全衛生方針、手順、労働安全衛生マネジメントシステムの要求事項(各種の規定・決めごと)に従うことの重要性

·  2) その作業活動によってもたらされる顕在的・潜在的な労働安全衛生上の結果(顕在:あらわに現れるもの、潜在:潜んで必ずしも現れないもの)

·  3) 各人の作業パフォーマンスの改善による労働安全衛生の利点

·  4) 労働安全衛生に関する役割と責任

·  5) 定められた運用手順から逸脱すればどんな事態になるのかの結果

 従業員には労働安全衛生に関する全般的な問題意識をもたせることが必要で、そのための手順が求められている。
 「その作業活動によってもたらされる顕在的・潜在的な労働安全衛生上の結果」の意味は、その作業をすれば、その結果として(あるいはそれに伴って)労働安全衛生上の問題としてどういうことがあるのか、を自覚させることである。

 訓練の手順は、次のレベルの違いを考慮に入れること。

·  責任・手腕・基礎教養

·  リスク

 誰に対してどのような訓練をどのような方法でどこまで実施するか、その訓練に関する手順は、レベルの違いによる。その者が負っている責任、どれだけ出来る者なのかの程度(手腕)、どのくらいの素養を備えているかの基礎的教養の具合、リスクの大きさを考慮に入れること。なお、基礎教養(literacy)とはいわゆる「読み・書き・ソロバン(計算)」を指し、仕事をする上での基礎的な教養のことを指す。最近ではFax・パソコン・電子メールが使えるか、まで問われるかも知れない。

4.4.3 協議及びコミュニケーション
 組織は、関係する労働安全衛生の情報を従業員及びその他の利害関係者に通知・聴取することを、確実ならしめる手順を用意すること。

 従業員の参画と協議に関する取決めは、文書化し、利害関係者に周知しなければならない。

 労働安全衛生に関する情報を従業員および他の利害関係者に周知させるとともに、吸い上げる手順を用意することが求められている。また、従業員が労働安全衛生に関するどのような取組みに参画し、労働協議などではどのような話になったのか、それらの取決めは文書に定め、利害関係者に周知する必要がある。次の要求事項も参考にすること。

 従業員に対しては次のことが求められている。

·  リスクを管理する方針と手順を策定し見直しをするのに参画する

·  職場の安全衛生に影響する何らかの変更があった場合には協議する

·  安全衛生に関する事項には従業員の代表を出す

·  従業員の労働安全衛生代表者と、経営陣の労働安全衛生管理責任者が誰であるかを周知する

4.4.4 文書化
 組織は、書面または電子形式など適切な媒体を用いて、次のための情報を用意しなければならない。

·  マネジメントシステムの核となる要素とそれらの相互作用を記述する

·  関連する文書のつながりを示す

備考:文書化は、有効性及び効率性のために必要最小限にすることが重要である。

 労働安全衛生のマネジメントシステムにはシステム文書を用意することが求められており、その規定内容はISO 14001:1996とほぼ同じである。必ずしも「労働安全衛生マニュアル」を作成し、OHSAS 18001で規定されたことを労働安全衛生マニュアル(あるいは下位規定)に漏れなく定めることが求められているわけではない。備考にも、そのような注意が書かれている。
 なお、「関連する文書のつながりを示す」とは「関連する文書を示唆してやる」「関連する文書には何があるのか分かるようにしてやる」ことを意味する。

4.4.5 文書及びデータ管理
 組織は、次のことを確実にするために、この労働安全衛生の仕様(規格)で要求されている文書及びデータを管理する手順を用意すること。

·  a) 文書の所在が分かる

·  b) 文書を定期的に見直し、必要により改訂し、責任者によって妥当性を承認される

·  c) 関係する文書及びデータの現在通用する版が、労働安全衛生マネジメントシステムを効果的に機能させるのに不可欠な運用を遂行するすべての場所で利用できる

·  d) 廃止文書及びデータは直ちに発行元及び使用先から撤去するか、または意図しない使用のないことを保障する

·  e) 法律上あるいは知識保存の目的で保管文書及びデータは、適切に識別する

 ここで求められている「文書管理」の規定は、ISO 14001:1996の「文書管理」とほぼ同じ表現になっている。ここでは「データ」も文書管理の対象にされているが、これはISO 9001:1987/1994の「文書及びデータの管理」にならったものであろう。
 なお、「文書の所在が分かる」の意味は、必要な文書がどこにあるのか所在場所が分かる(したがって取り出して参照できる)、ということである。

4.4.6 運用管理
 組織は、特定されたリスクを伴、管理手段の適用が必要な運用及び活動を明らかにする。

 労働安全衛生リスクを伴う運用・活動(管理手段を適用する必要があるところ)には何があるのか、特定することが求められている。たとえば、運用では重機やシアリングマシンの運転操作であるとか、活動では高所作業やタンク内洗浄のような活動があげられる。

 組織は、次の事項によって、メンテナンスを含むこれらの活動が所定の条件下で実施されることを確実にする。

·  a) もしそれがないと方針・目標から逸脱する状況になりかねない場合に、それをカバー(守備)するための手順書

·  b) その手順書には運用基準を明記する

·  c) 組織(事業場)が購入・使用する物品・設備・サービスについての特定された労働安全衛生リスクに関する手順を用意する

·  また、供給者と下請負業者に関連手順と要求事項を伝達する

·  d) 労働安全衛生リスクをその発生源で除去・低減させるために、職場、プロセス、据付、機械、運用手順、作業組織体制をどうすべきかを設計する手順を用意する(これには人的能力への適応を含めて考える)

 単純で安全な作業(運用・活動)ならともかく、所定の手順で確実に実施しないと労働安全衛生リスクが労災につながり、方針・目標から逸脱することになりかねない場合は、運用手順書を用意することが求められている。
 この手順書には「運用基準」を明記しなければならない。運用基準とは、その作業(運用・活動)を実施する場合の安全上の判断(判定)基準である。たとえば、地中作業ならガス濃度がどんな値(運用基準)になれば酸素マスクを着用するとか、回転機械であれば安全な回転数の上限値(運用基準)以下で運転する、などである。
 作業組織体制をどのように組むべきかを検討するときは、リスクに見合った要員配置、作業時間の割当て、役割分担、就業条件、監視体制、ベテランと新人の編成、教育訓練・OJTの計画、職場(安全)パトロール、改善活動、事故・緊急事態への対応体制など、さまざまな点からの考慮が必要であろう。関係する従業員(の技量)がそれらに問題なく適応できるかも検討に入れておかなければならない。
 ここの規定もISO 14001:1996/2004と類似しているが、d)項はISO 14001:1996/2004にない項目である。

4.4.7 緊急事態への準備及び対応
 組織は、次のことに対する「計画」と「手順」の両方を用意すること。

・潜在的な事故誘因と緊急事態には何があるかを特定する
・特定された潜在的な事故誘因と緊急事態に対応する
・それらに伴って生じるかも知れない病気や傷害を予防する
・それらが生じたときには緩和する(被害の拡大を食い止める)

 組織は、緊急事態への準備、および対応「計画」と「手順」は見直しをすること。とりわけ事故誘因と緊急事態が発生した場合には必要である。

 組織は、可能な場合には、このような手順は定期的にテストしなければならない。

 事故誘因と緊急事態に対して求められているのは、これらに対応する「計画」と「手順」であることに注意のこと。
 これらの「計画」と「手順」は適宜その内容が妥当で適切なものであるかを点検し見直さなければならない。事故誘因と緊急事態が現実に発生してしまった場合には、点検見直しが不可欠である。JIS訳では「不測の出来事」と記載してあるのは事故誘因を意味する。
 「テスト」はあくまでもテストであって、上記の手順が妥当で適切に機能するものであるのか、テストによって確かめ、検証することを指す。訓練することではないので注意のこと。

4.5 点検及び是正処置

4.5.1 パフォーマンスの測定とモニタリング
 組織は、労働安全衛生パフォーマンスを定常的に監視・測定するための手順を用意すること。これらの手順には、次の事項が示されていること。

·  組織(事業場)の必要性に見合った定性的・定量的な指標

·  労働安全衛生目標がどの程度達成できたのかの監視

·  労働安全衛生マネジメントプログラム、運用基準、適用可能な法的要求事項の順守を監視する予防的パフォーマンス指標

·  事故、健康障害、事故誘因(ニヤミスを含む)、その他の具合の悪かった労働安全衛生パフォーマンスの履歴を監視する事後的パフォーマンス指標

·  その後の是正処置・予防処置の分析を促進するのに十分なデータと監視・測定の結果の記録

 労働安全衛生のパフォーマンスについて、まずは組織としての評価指標が求められている。また、策定した労働安全衛生目標の達成状況をどのように推し量る(監視・モニタリングする)のかも、手順として決めることが求められている。
 3項目目にある「予防的パフォーマンス指標」の予防的(proactive)とは「問題が起きる前に先手管理的に未然防止すること」であり、4項目目にある「事後的パフォーマンス指標」の事後的(reactive)とは「問題が起きてからそれに対応した何らかの手を打つこと」である(いずれも4.3.1 危険源の特定・リスクアセスメント・リスク管理の計画を参照)。
 労働安全衛生マネジメントプログラム・運用基準・適用可能な法的要求事項については、それらから逸脱することのないように、定常的に何をチェックしておけばよいのか、状況をよく見守る必要がある。運用基準から外れたことをしたり法的要求事項から違反してしまってから処置を講じるようでは手遅れになるからである。
 また、いったん事故、健康障害、事故誘因(ニヤミスを含む)、その他の具合の悪い状況を起こしてしまった場合には、それに対してとった処置がどのような出来ばえ(パフォーマンス)の結果になったのか、よく調べる必要がある。

 監視機器がパフォーマンスの監視・測定に必要な場合には、組織はそのような機器の校正とメンテナンスのための手順を用意すること。
 校正及びメンテナンス活動と結果の記録は、保持すること。

 監視機器の校正とメンテナンスをするための手順が求められており、それに関する記録を残すことも必要とされている。OHSAS 18001では、ISO 14001と同様に監視機器・測定機器の校正に関する要求事項は極めて簡素で、あっさりしたものである。ISO 9001:2000の場合とは比べものにならないほどである(ISO 9001:1987/1994では要求がもっと過大であった)。

4.5.2 事故、事故誘因、不適合、並びに是正及び予防処置
 組織は、次の事項についての責任・権限を明確にする手順を用意すること。

·  a) 次のことの取扱いと調査
   事故、事故誘因、不適合
 ここでは、事故・事故誘因・不適合を取扱っている。何を不適合とするかは3 用語と定義の3.8に定められているので参照すること。

·  b) 事故、事故誘因、不適合から生じる結果の緩和処置をとること
 「事故、事故誘因、不適合から生じる結果の緩和処置」とは事後(reactive)の応急(緊急)処置になり、被害の拡大を最小限に食い止め、二次災害を防止することである。

·  c) 是正処置・予防処置を起動し、終結させること
 是正処置は発生してしまった(顕在化した)不適合の「原因」を除去するための処置(再発防止ともいう)であり、予防処置はまだ発生していない(潜在化した)不適合の「原因」を除去するための処置(未然防止ともいう)である。
 ここで重要なことは、顕在化/潜在化した不適合があった場合に、是正処置/予防処置を起動させてその処置に着手させ、手順にしたがって処置を行わせ、適切なところで完了させることである。そのことが出来る手順が求められている。

·  d) とられた是正処置・予防処置の有効性を確かめること
 手順には、とられた是正処置/予防処置が機能し、結果として再発防止/未然防止になっているかを検証することも含まなければならない。「有効性」とは決められたとおりに実施した結果として見込みどおりの成果が得られたかどうかの程度を指す。ISO 9000:2000には有効性の定義が書かれているので、参考になろう。

 これらの手順では、提起された是正処置・予防処置が、その実施に先立ってリスクアセスメントのプロセスを通して点検されるようになっていなければならない。

 是正処置/予防処置によって講じる処置(再発防止策/未然防止策)が提起されたとき、それを実施に移す前に4.3.1 危険源の特定・リスクアセスメント・リスク管理の計画などで定められた手順にもとづいてどの程度効果があるものなのかを点検・評価し、必要であれば見直しをしなければならない。効果が不十分と評価されたときは、そのリスクが許容可能な水準以下に収まるように処置内容を再検討すべきである。

 顕在化した不適合、および潜在化した不適合の原因を除去するためにとられた、あらゆる是正処置、予防処置は問題の大きさに見合い、遭遇する労働安全衛生のリスクに釣り合ったものであること。

 是正処置/予防処置は、再発防止/未然防止に効果がなくてはならない。しかし、その処置を完全に実施しようとすれば多大の経営資源が必要になることもありえる。どのような是正処置/予防処置も、それによって得られる効果と釣り合う程度のところで手を止めればよい。どのあたりが「問題の大きさに見合い遭遇するリスクに釣り合ったもの」になるかは、組織の合理的な判断で決めればよい。

 組織は、是正処置および予防処置から来る結果としてのあらゆる変更は、文書化した手順に反映し記録しなければならない。

 是正処置も予防処置も、それが再発防止/未然防止として効き目を現すためには、あるいは顕在的/潜在的な不適合の「原因」の除去になっていれば、労働安全衛生マネジメントシステムの弱点・不備・欠点・欠陥に手を打つような処置内容になる。これは労働安全衛生マニュアル、関連手順書、その他のシステム文書や取決め(文書)を手直しになることを意味する。
 すなわち、是正処置/予防処置を正規に(完全な形で)実施すれば、文書化した手順の新規作成や変更(改訂)する結果となるのがふつうである。

4.5.3 記録及び記録の管理
 組織は、監査と見直しの結果とともに、労働安全衛生の記録の特定、維持、廃棄のための手順を用意すること。

 記録として残すべき「監査と見直し」にある監査とは、4.5.4の内部監査のことを指している。また、見直しは4.6 経営層による見直しが重要なひとつになる(それ以外にもありうる)。
 労働安全衛生マネジメントシステムを運用した結果として、どのような記録を残すべきか、それをまず「特定」しなければならない。「廃棄(disposition)」とは、用済みの記録を最後はどうするのか、最終処分を決めることを指す。必ずしも廃棄になるとは限らない。

 記録は、文字が判読でき、識別可能であり、関連した活動に追跡可能でなければならない。また記録は容易に検索(取出し)でき、損傷、劣化、紛失に対して保護できるように保管し、維持すること。保管期間を定め、記録すること。

 記録と記録の管理に求められていることは、ISO 14001:1996とほぼ同様であり、ISO 14001:2004とISO 9001:2000ともかなり整合している。ISO 9001:2000と違う点は、これらの記録には「追跡性」も求められていることである。

 記録は、このシステムと組織に相応しく、この労働安全衛生の仕様(規格)への適合を実証するために維持すること。

 OHSAS 18001への適合性を実証すために、どのような記録をどれだけ残すべきかは、構築した労働安全衛生マネジメントシステムと組織の状況に応じて決まるものなのである。

4.5.4 監査
 組織は、次のことを行うために、実施すべき定期的な労働安全衛生マネジメントシステム監査のプログラムと手順を用意すること。

·  a) 労働安全衛生マネジメントシステムについて、次の事項の是非を決定する。  1) この労働安全衛生の仕様(規格)の要求事項も含めて、労働安全衛生マネジメントの計画された取決めに適合している
 2) 適切に実施され、維持されている
 3) 組織の方針及び目標の達成に効果的(有効)である

·  b) 前回までの監査の結果を見直す。

·  c) 監査の結果に関する情報を経営層に提供する。

 内部監査に求められていることはISO 14001:1994/2004やISO 9001:2000とほぼ同様であり、整合性がある。内部監査にはプログラムと手順が必要であることを再認識すること。
 OHSAS 18001の内部監査では、現状の労働安全衛生マネジメントシステムが組織の方針と目標を達成するのに効果的(有効)かどうかも判定するように求められている。また、前回までの内部監査の結果もレビューすることも求められている。これらの点には注意すること。

 監査プログラムは、あらゆる予定を含めて、組織の活動のリスクアセスメントの結果と前回までの監査結果にもとづくこと。監査手順には、監査を行い結果を報告するための責任と要求事項とともに、監査範囲、頻度、方法、能力を含めること。

 可能な限り、監査は監査される活動に直接の責任をもたない独立した要員によって実施すること。
備考:「独立した」という用語は、必ずしも組織外であることを意味しない。

 監査プログラムと監査手順については、ISO 19011:2002(品質及び/又は環境マネジメントシステム監査のための指針)に参考になる情報が書かれている。

4.6 経営層による見直し
 組織の最高経営層は、組織が定めた間隔で労働安全衛生マネジメントシステムの見直しをすること。その見直しは、労働安全衛生マネジメントシステムが継続して適切で、妥当で、有効なものであることを確実にするために行う。

 組織の最高経営層の重要な責務は、労働安全衛生方針を掲げ、それが達成できるように目標を策定させる。そして管理責任者を任命して労働安全衛生マネジメントシステムの構築と実施運用を担わせ、必要な経営資源を用意することであるが、システムが回転するようになれば、システムが一巡した最後に最高経営者の目でシステムの点検・見直しをしなければならない。それがマネジメントレビュー(経営者による見直し)である。
 ここで言う適切とは、労働安全衛生マネジメントシステムが組織の目的(方針を策定し目標を掲げそれを達成すること、以って労働安全衛生パフォーマンスを向上させること)にぴったりと合い適正であること。妥当とは、労働安全衛生マネジメントシステムが(組織の目的を達成するのに)量的にも質的にも過不足がないこと。有効とは、労働安全衛生マネジメントシステムの実施によって見込みどおりの結果を出せること、である。

 経営層による見直しのプロセスでは、経営層がこの評価を実施できるように、必要な情報を収集することを確実ならしめること。この見直しは文書化すること。

 経営層による見直しは、労働安全衛生監査の結果、変化している周囲の状況、継続的改善の約束(コミットメント)に照らし合わせて、方針、目標、労働安全衛生マネジメントシステムのその他の要素の変更の必要性を指し示していなければならない。

 この見直しをすれば、最高経営層としての決定事項・処置事項を明らかにしなければならない。すなわち、方針・目標・労働安全衛生マネジメントシステムは現状のままでよいのか、変更・修正の必要があるのなら、それは何(どこ)でどのようにすべきか、などである。



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