じん肺陰影の特徴
イ.粒状影
粒状影を示すじん肺の代表はけい肺であるが、その他のじん肺でも粒状影を示す。以下、けい肺とその他のじん肺の粒状影の特徴について概説する。
 (イ)け い 肺
 けい肺のエックス線写真像は、その他のじん肺と同様に、一般的に、吸入粉じん量により異なり必ずしも一律ではない。初期のきわめて線維化の弱い時期には、個々の結節像は認めにくく、末梢の血管影がみえにくくなり、血管影と血管影の間に異常陰影出現し次第に増加してくる。このような陰影は、中下肺野に初発し(特に側方部である。)次第に上肺野に及んでくる。けい肺の示す結節像は、一般的に濃度が高く円形である。粒状影は、経過とともに次第に大きさと数を増してきて全肺野に及ぶようになる。遊離けい酸含有率の高い粉じんによる典型的なけい肺では、個々の結節の径が10mmに達することがある。
 吸入粉じん量が少ない場合や粉じんばく露期間が短い場合等には、このようなエックス線写真像を示すよりも次に述べる「その他のじん肺」に類似した所見を呈することがある。
 (ロ)その他のじん肺
 遊離けい酸含有率の低い粉じんや遊離けい酸を含まない粉じんによるじん肺のエックス写真像及びその経過は、けい肺の場合と多少異なっている。このようなじん肺の粒状影も、一般的に、粉じんの種類や吸入粉じん量により異なり、エックス線写真像の推移も異なっている。一般に、粒状ではあるがその形は種々であり、小さく、濃度が低い。このような粒状影は、進展に伴ってその数を増してくるが、けい肺のように個々の径を増すことは稀である。
ロ.不整形陰影
不整形陰影は、石綿肺のほかにその他のじん肺にも認められる。
 (イ)
 石綿肺の不整形陰影は、下肺野に初発し、次第に中肺野に及んでくる。最も初期の変化は、両側下肺野の微細な粒状影、異常線状影である。進行してくると、小さな輪型の陰影が加わって、細網状、網目状等の不整形陰影がその密度を増し、助横角が消失し、横隔膜影や心界は不明瞭になる。さらに進行すると、のう状影や蜂窩状影も現れてくる。通常は対象性であるが時に一側に優勢なこともある。
 石綿肺の特徴としては、異常述べた肺野の変化のほかに、側壁胸膜の変化、横隔膜の変化、横隔膜上の石灰化影等があげられるが、これらについては後述する。
 (ロ) その他のじん肺
 その他のじん肺の場合にも、粒状影のほかに、種々の形の小さな濃度の低い陰影が認められ、進展に伴ってその数を増してくる。
 ハ.大 陰 影
 けい肺の場合には、上肺野における粒状影がその数と大きさを増してきて、次第に個々の粒状影が識別できない塊状影となり、比較的鮮鋭な辺縁と濃厚な陰影を示す大陰影になるのが一般的な経過である。この大陰影の形成進展の前半では、肺野全般の粒状影の分布は余り影響されないが、大塊状影の形成は萎縮機転を伴い、胸膜の癒着肥厚等が加わると、下肺野での気腫が著明となり、肺門部の上、速報、後方への偏位、心陰影〜中心影の変形、横隔膜の下降と天幕形成、雨垂状血管像等をみるに至り、下肺野での粒状影はエックス線写真像上粗あるいはほとんど識別しえない状態とさえなる。このようになると他肺野の粒状影も明瞭に判読されないことの方が多い。
 その他のじん肺でも、吸入粉じん量の増加等により大陰影に発達することがあるが、石綿肺では、大陰影が出現することは極めて少ない。
 ニ.その他の変化
 (イ) 肺門影の変化
 けい肺以外のじん肺でも肺門影の多少の増強を伴うが、特にけい肺ではその初期、肺野に明らかな粒状影を示さない以前にすでに肺門影の変化がめだち、断層像や側面像で肺門リンパ節の腫脹が明白な場合が少なくない。著しい肺門部の病変は、肺門影の濃度をまし血管影の判読を困難とする。けい肺では、特に肺門リンパ節の高度の変化を伴うので、肺門影はコンマ状、腎臓形等の輪郭が比較的はっきりした陰影を示し、さらに長時間にわたる粉じんばく露者及び吸じん後長期間を経た者にはしばしば卵殻状石灰像をみる。なお、肺門の偏位(上・側方かつ後方)はじん肺の進展とともに多少とも認められる場合が多い。
 (ロ)肺 気 腫
 じん肺はその種類を問わず、程度の差はあれ気腫性変化を伴い、けい肺では結節の周囲に著明でないが気腫が目立ち、肺野は明るく、その部分の結節像は粗となり、かつ、判別に困難さを加えてくる。その他のじん肺では、小結節周囲の局所の気腫が主で、ブラの発生のけい肺に比べれば少ない。大陰影を伴うじん肺では、その周囲の肺気腫が著しいのみならず、上下肺野におけるブラの像も著明になる。
 (ハ) 胸膜の変化
 石綿肺の場合には、肺野の変化に加えて胸膜の変化が重要な所見であり、両側肋横角の消失、横隔膜上の石灰化影、胸膜肥厚及びその石灰化像が認められる。
じん肺エックス線写真像の分類
じん肺法では、エックス線写真像の区分は次のように定められている。
エックス写真の像
第 1 型 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、じん肺による大陰影が
ないと認められるもの
第 2 型 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、じん肺による大陰影が
ないと認められるもの
第 3 型 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、かつ、じん肺による
大陰影がないと認められるもの
第 4 型 じん肺による大陰影があると認められるもの
じん肺管理区分の決定に当たっては、上記に掲げた第1型から第4型までの区分を行う必要があるが、それ以上の詳細な分類は必要ではない。しかし、エックス線写真像から得られる情報については、病変の進展の判断、種々の比較検討などのために必要な限度において分類する必要がある。
イ.小陰影の分類
 (イ)粒 状 影
粒状影のタイプは、主要陰影の径にしたがって分類する。
  p =直径1.5mmまでのもの
  q(m)=直径1.5mmを超えて3mmまでのもの
  r(n)=直径3mmを超えて10mmまでのもの
   (上記中カッコ内は旧来用いられていたタイプについての記号である。)
型の区分は、粒状影の密度に応じて次のように区分する。
  第1型 − 両肺野に粒状影があるが少数のもの
  第2型 − 両肺野に粒状影が多数あるもの
  第3型 − 両肺野に粒状影が極めて多数あるもの
 型の区分に当たっては、標準エックス線フィルムによることとする。標準エックス線フィルムは第1型、第2型および第3型の中央のものを示しているほか、じん肺の所見がないと判断するフィルムの上限のもの、第1型の下限のものを示している。型の区分を行う際には明確にある型のものと判断できない場合があるため、12階尺度を用いることとする。
12階尺度は次のとおりである。
  
0/−・・・・ 正常構造が特によくみえるもの(普通若い人にみられる。このような所見はあまり多くない。)
0/0・・・・ じん肺の陰影が認められないもの
0/1・・・・ じん肺の陰影は認められるが、第1型と判定するに至らないもの
1/0・・・・ 第1型と判定するが、標準エックス線写真フィルムの“第1型(1/1)”に至っているとは認められないもの
1/1・・・・ 標準エックス線写真フィルムの“第1型(1/1)”におおむね一致すると判定されるもの
1/2・・・・ 第1型と判定するが標準エックス線フィルムの“第1型(1/1)”よりは数が多いと認められるもの
2/1・・・・ 第2型と判定するが標準エックス線フィルムの“第2型(2/2)”よりは数が少ないと認められるもの
2/2・・・・ 標準エックス線フィルムの“第2型(2/2)”におおむね一致すると判定されるもの
2/3・・・・ 第2型と判定するが、標準エックス線フィルムの“第2型(2/2)”よりは数が多いと認められるもの
3/2・・・・ 第3型と判定するが、標準エックス線フィルムの“第3型(3/3)”よりは数が少ないと認められるもの
3/3・・・・ 標準エックス線フィルムの“第3型(3/3)”におおむね一致すると判定されるもの
3/+・・・・ 第3型と判定するが、標準エックス線フィルムの“第3型(3/3)”よりは数が多いと認められるもの
 型の区分に当たっては、じん肺の種類に応じ対応する標準エックス線フィルムを用い、粒状影の密度に応じて区分する。
 じん肺健康診断結果証明書には、従来の読影結果との推移を点検すること、疫学的情報を得ること等の目的から、この12階尺度により区分し記載するとともに粒状影のタイプについて記載する。
(ロ) 不整形陰影
 不整形陰影は、主に線状、細網状、繊維状、網目状、蜂窩状、斑状とよばれている像をいう。1971年ILO U/C分類では、不整形陰影のタイプをs,t,uと分類しているが、じん肺法ではこの分類は採用しない。
  型の区分は、不整形陰影の密度に応じて次のように区分する。
   第1型 − 両肺野に不整形陰影があるが少数のもの
   第2型 − 両肺野に不整形陰影が多数あるもの
   第3型 − 両肺野に不整形陰影が極めて多数あるもの
  型の区分に当たっては標準エックス線フィルムによることとし、じん肺の種類に応じて対応する標準エックス線フィルムを用い、不整形陰影の密度に応じて、粒状影と同様に12階尺度を用いて区分する。
 じん肺健康診断結果証明書には、粒状影の場合と同様に12階尺度を用いて記載する。
(ハ)小陰影の型の区分
 粒状影及び不整形陰影の各々については、(イ)及び(ロ)で述べたごとく区分するが、(2)で述べたように、じん肺のエックス線写真像には、しばしば両方の陰影が同時に明らかに存在することがある。このような場合の型の区分について、1971年ILO U/C分類では、「複合密度」の概念を示している。しかし、具体的な区分の方法を示すことは困難であるとされている。従って、小陰影を呈すエックス線写真像について、じん肺法に定める第1型から第3型までのエックス線写真像の区分を行う際には、じん肺の種類に対応する標準エックス線フィルムを用いて区分を行う。
 じん肺健康診断結果証明書への記載に当たっては、粒状影及び不整形陰影の区分のほかに、小陰影の型の区分を12階尺度で記載する。
ロ.大陰影の分類
ひとつの陰影の長径が1cmを超えるものが大陰影であり、その径に従って次のように分類する。
   A− 陰影が1つの場合には、その最大径が1cmを超え5cmまでのもの。数個の場合には、ここの影が1cm以上で、その 最大の和が5cmを超えないもの
B− 陰影が1つ又はそれ以上で、Aを超えており、その面積の和が1側肺野の1/3(右上肺野相当域)を超えないもの
C− 陰影が1つ又はそれ以上で、その面積の和が1側肺野1/3(右上肺野相当域)を超えるもの
じん肺管理区分に係る大陰影の区分は、上記Cに該当するか否かの区分クブンで足りるが、疫学エキガク的情報を得る等の目的からA,B,Cの区分を行う。
 ハ.その他の像
 ロで述べたじん肺エックス線写真の像の区分のほかに、エックス線フィルムに現れたじん肺所見以外の所見についても、合併症に関する情報、疫学的情報、保健指導のための資料の収集等の目的から所見の有無について読影の際に留意する必要がある。留意すべき所見は次のとおりである。
  
  
@ 胸膜肥厚等の胸膜の変化(石灰化像を除く) (pl)
A 胸膜の石灰化像 (plc)
B 心臓の大きさ、形状の異常 (co)
C ブラ(のう胞) (bu)
D 空 胴 (cv)
E 著明な肺気腫 (cm)
F 肺門又は縦隔リンパ節の卵殻状石灰沈着 (cs)
G 肺又は胸膜のがん (ca)
H 気 胸 (px)
I 肺結核 (ib)
「じん肺診査ハンドブック」
労働省安全衛生部労働衛生課編より