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労災保険における第三者行為災害の「第三者」とは、被災労働者、被災労働者を雇用する事業主、政府の三者以外の者を指します。
一方で、健康保険における第三者行為災害の場合は、その「第三者」には事業主が含まれますので、同じ第三者行為災害でも労災保険と健康保険ではその対象範囲が異なっています。
但し、実際は、事業主の行為(作為又は不作為)を原因とする災害は業務災害として労災認定されるケースが多いので、健康保険で事業主の行為による傷病が問題になるケースはほとんど有りません。
第三者行為災害による傷病又は死亡に対して労災保険給付を請求する時は、必ず「第三者行為災害届」を労働基準監督署に提出しなければなりません。
第三者行為災害の特殊性
第三者行為による労災事故が通常の労災事故と大きく異なる点は、第三者行為災害の場合は、その被害者(被災労働者)が加害者に対して不法行為責任又は債務不履行責任に基づく損害賠償請求権を取得出来ることにあります。
つまり、同一の災害による傷病又は死亡に対して、その加害者と政府の両方から補償が二重補填されるケースが出てくる、ということです。
そこで、労災保険では、損害に対する二重補填を回避する為に、次に掲げる(1)(2)の支給調整規定が設けられています(これは健康保険も同様です)。
(1)第三者行為災害に対して、労災保険給付が民事的な損害賠償より先に支給された場合は、政府は、支給した保険給付額の限度で被災労働者(又はその遺族)が加害者に対して有する損害賠償請求権を代位取得(=加害者への求償権を取得)する。
(2)第三者行為災害に対して、民事的な損害賠償が労災保険給付より先に支払われた場合は、政府は、加害者から支払われた損害賠償額の限度で被災労働者(又はその遺族)に対する労災保険給付を控除(支給停止)出来る。
※上記の「民事的な損害賠償」には、交通事故に対する自賠責保険(又は任意保険)からの給付も含まれます。
※第三者行為による物的損害や慰謝料は労災保険給付の対象外ですので、上記の支給調整(求償又は控除)規定の対象外です。
※労災事故の原因となった加害行為がその加害者の勤務中に為されたものである場合、政府は、原則として民法第715条の使用者責任規定に基づき、その加害者を使用する事業主に対して求償権を行使します。
※ちょっと法律的なお話になりますが、上記(1)は「政府は求償権を取得する」と定めているだけであり、上記(2)は「政府は控除出来る」と定めているだけですので、上記(1)又は(2)に該当した場合、政府に求償義務又は控除義務が有る訳ではなく、実際に求償権又は控除権を行使するか否かは政府の裁量に委ねられている、ということにご注意下さい。
尚、上記(1)の規定による加害者への求償、又は上記(2)の規定による労災保険給付の控除において問題となるのが、長期間にわたって支給される年金給付の場合です。
そこで、労災保険においては、上記の求償も控除も労災事故発生日から3年間に支給される労災保険給付を対象にする旨が別途定められています。
※ここで「3年間」と規定されているのは、おそらく不法行為責任に基づく損害賠償請求権が3年で時効消滅するからだと推測されますが、厚生年金・国民年金の支給調整(求償又は控除)の対象期間は「2年間」と規定されており、この辺が労働社会保険法令のよく分からないところです。
同僚労働者の行為による労災事故
労災保険では、次の1と2に掲げるような同僚労働者の行為による労災事故の場合は、先述した求償や控除は行なわないことになっています。
※但し、これは法律に規定されたものではなく、あくまでもお役所内部での取り決め(=行政通達)ですので、明日にでも突然変更されるかも知れませんが・・・。
1.同一の事業主に雇用される労働者間の加害行為による労災事故
  (事業場が異なる場合も含む)
2.同一の事業場で使用される労働者間の加害行為による労災事故
  (事業主が異なる場合も含む)
尚、上記の1又は2に該当する場合でも、政府が「求償や控除は行ないませんよ」と言っているだけであって、第三者行為災害に該当することには変わりがありませんので、先述した「第三者行為災害届」を提出しなければなりません。
示談についての注意点
示談とは、ご存知のように、一般には「裁判外での和解契約」のことを指します。
この示談について、まず注意しなければならないことは、先述しましたように、「加害者に対して有する損害賠償請求権のうち、既に労災保険給付の支給を受けた部分は、その請求権が政府へ移転している為、これを被災労働者(又はその遺族)が勝手に示談によって金銭相殺又は放棄(免除)することは出来ない」ということです。
労働基準監督署へ「第三者行為災害届」を提出する際、必ず所定の「念書」に自署又は記名押印して提出することになります。
この「念書」には次のようなことが書かれています。
(1)相手方と示談しようとする時は必ず前もって労働基準監督署長に連絡します。
(2)相手方から金品を受けた時は遅滞無くその内容を労働基準監督署長に連絡します。
(3)示談内容によっては労災保険給付が受けられない場合があることを承知しました。
(4)相手方に白紙委任状は渡しません。
(5)私が受けた労災保険給付については、政府が私の有する損害賠償請求権を取得することを承知しました。
上記の(1)〜(5)のうち、特に注意すべきは(3)です。
なぜなら、第三者行為による労災事故については、「被災労働者(又はその遺族)と加害者の間で損害賠償請求権の全部の填補を目的とする示談が真正に(錯誤・詐欺・強迫無しで)成立した場合は、その示談額を問わず労災保険給付は支給しない」と定める昭和38年の古い行政通達がいまだに行政内部で罷り通っているからです。
最近の裁判所の判例では、特に事故による後遺障害や傷病再発などに対しては、「真正に示談が成立した場合であっても、示談当時に予想出来なかった不測の再手術や後遺症が発生した場合、その不測の損害についてまで損害賠償請求権を放棄した趣旨と解すべきではない」という判決が出ていますが、これは数年越しの裁判結果であって、あくまでも労災保険給付を支給するか否かを第一次的に決定するのは労働基準監督署である、ということを常に念頭に置かなければなりません。
ですので、もし加害者側と示談を行なう場合は、示談書に「今後、現時点で予見不可能な二次損害が発生した時は、政府に対して労災保険給付を請求する」という旨の一文を必ず入れることが重要です。
※但し、先述しましたように、労災事故発生日から3年経過した日以降に労災保険給付(障害年金や遺族年金など)を受給出来る状態にある場合は、加害者側との示談成立の有無に関わらず、その労災保険給付を全額受給することが出来ます。
藤澤労務行政事務所 
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